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量子コンピュータの「量子の絡み合い」とは?:遠く離れても影響し合う不思議な関係

Tags: 量子コンピュータ, 量子の絡み合い, エンタングルメント, 量子論, 量子ビット

量子コンピュータは、私たちの身の回りにある通常のコンピュータとは全く異なる原理で動いています。その中でも特に不思議で、かつ重要な役割を果たすのが「量子の絡み合い」、専門用語では「エンタングルメント」と呼ばれる現象です。

前回、量子コンピュータの基本的な要素である「量子ビット」が、0と1の両方の状態を同時にとることができる「重ね合わせ」という現象を利用することをご紹介しました。この「量子の絡み合い」は、その重ね合わせの状態にある複数の量子ビットが、まるで目に見えない糸で結ばれているかのように、お互いの状態に深く関係し合う現象を指します。

この記事では、この「量子の絡み合い」が一体どのような現象なのか、なぜそれが量子コンピュータの驚くべき計算能力の源泉となるのかを、たとえ話や身近な例を交えながら、専門知識がなくても理解できるように丁寧にご説明します。

量子の絡み合い(エンタングルメント)とは?

「量子の絡み合い」とは、二つ以上の量子ビットが、どれだけ離れていても、互いの状態が瞬時に影響し合う、非常に特殊な関係性を持つ現象のことです。

少し想像しにくいかもしれませんので、ここで一つたとえ話を使ってみましょう。

「不思議なペアコイン」のたとえ話

ここに、特別に作られたペアのコインAとコインBがあるとします。この二枚のコインは、普段は表か裏か決まっていません(「重ね合わせ」の状態です)。

この現象のポイントは、「観測するまで表か裏か決まっておらず、観測した瞬間に状態が決定される」という点、そして「一方の観測結果が、もう一方の観測結果に瞬時に影響を与える」という点にあります。この「遠隔での瞬時の影響」は、アインシュタインでさえ「不気味な遠隔作用」と表現したほど、私たちの常識からかけ離れた現象なのです。

古典的な結びつきと何が違うのか?

私たちの身の回りにも、互いに関連し合う現象はたくさんあります。例えば、「双子の兄弟が、同じ日に同じ時間帯に、それぞれ違う場所で、同じような行動をとっていた」といった話を聞くことがあります。しかし、これは「遺伝や育った環境が似ているため、行動パターンが似ただけ」で、片方の行動がもう片方に瞬時に影響を与えるわけではありません。情報が伝わるには時間がかかりますし、共通の原因による結果です。

しかし、「量子の絡み合い」は、そのような古典的な相関関係とは根本的に異なります。二つの量子ビットが絡み合っている場合、片方の状態を観測し、その結果が確定すると、もう片方の状態も瞬時に確定します。この「瞬時」というのが重要で、光の速さよりも早く情報が伝わっているかのように見えるのです(ただし、この現象を使って情報を光速よりも早く送ることはできないとされています)。

なぜ量子コンピュータにとって重要なのか?

この「量子の絡み合い」こそが、量子コンピュータが古典コンピュータでは解決が難しい問題を解くための、非常に強力な武器となります。

量子の絡み合いが拓く未来

「量子の絡み合い」の現象は、量子コンピュータだけでなく、さまざまな最先端技術の基盤としても注目されています。

まとめ

「量子の絡み合い(エンタングルメント)」は、私たちの日常的な感覚では理解しがたい、量子力学がもたらす極めて不思議で強力な現象です。遠く離れた量子ビットがまるで心でつながっているかのように瞬時に影響し合うこの関係性は、量子コンピュータが複雑な計算を効率的に行い、これまでのコンピュータでは不可能だった問題を解決する上で不可欠な要素となっています。

この「量子の絡み合い」を理解することは、量子コンピュータがどのような原理で動作し、私たちの未来にどのような革新をもたらすのかを想像するための重要な一歩となります。今後、この不思議な現象が、さらに多くの分野で応用され、私たちの社会を豊かにしてくれることでしょう。